東京銀座に事務所を構えると言えば聞こえはいいし
実際住所は間違いなく東京都中央区銀座なんだけど
裏通りにある雑居ビルの3階
小さな事務所には今日も私と絵理沙の二人だけ
絵理沙は5年下の後輩で、小さな、事務員二人のこの会社では大切な仲間だ
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「先輩、どう思います?」
「んー・・」
「実際食べてみないと分かんないですね?」
「まぁ・・」
「こんな事まで、私たちの仕事なんですかね?」
「まぁ、ねぇ。 しょうがない。小さい会社だし」
「ですね、分かってまーす」
綺麗に捲かれた髪を指先で弄びながら絵理沙が笑う
私たちは今、流行りの東京土産を探している
社長が奥様の実家に行く際の手土産らしいのだが
10年この会社に勤めていて、こんな事を頼まれたのは初めてで
社長は隠そうとしているが
多分、いや、きっと喧嘩して実家に戻った奥様を迎えに行くのだ
「まぁ、でも。社長にあんなに申し訳なさそうに頼まれたら断れないですよね」
「うん、珍しかったね」
「レア社チョー」
「何それ」
「新しいポケモンの仲間です」
「はははは」
笑ってしまった
この会社は小さいけれど、営業に出ている男性社員含め皆仲がいい
社長ももちろん、尊敬しているし関係は悪くない
だからこそ、完全プライベートであろうこのお願いも聞いているのだ
「私はこっちのが断然気になるんですよね」
絵理沙が見ているのはプレスバターサンドのHP
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「でも、これも美味しそうじゃない?」
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私はニューヨークパーフェクトチーズのHP
どうやらこの2択まで絞られた
「私たちがこんなに真剣に人様のお土産選ぶなんて、ホント感謝して欲しいですね」
「ん。でも案外楽しいけど」
「分かりますー!私絶対どっちも自分で買っちゃうと思います」
「太るよ」
「良いんですよ、食べたいときは食べたらいいんです!」
絵理沙が笑っている、私もつられる
たまにはこんな日があってもいい
毎日毎日同じじゃつまらない
明日は明日。
今日の分も働けばいいのだ
散々悩んで決められずプレスバターサンドとニューヨークパーフェクトチーズ
両方の情報をメモに残し、社長のデスクに置いておく
後は奥様の好みを鑑みて、決めてもらおう。
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「おはよーございまーす」
「おはよー」
「あれ、どうしたんですか?」
絵理沙が目を輝かせている
「お礼だって、社長から」
「マジですか⁉ やったー、食べましょ!」
「はい、はい」
「私、お茶入れまーす」
ーーーありがとう、助かりました。平田君とどうぞ
社長のこういう気づかいが、皆が慕う所以だろうか
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「んー、このチーズの風味美味しいですね」
「こっちのキャラメルも濃すぎずいいよ」
「ほんとだー、クッキーさくさくだし」
「ね。この軽さでこのチーズ感もすごいね」
「ですよね? これ、食べ比べても決められませんね」
「そーだね」
「社長、どっちにしたんだろう?」
「どーだろうね?」
ーーー助かりました。
きっと仲直りは成功したに違いない
自分の事ではないけれど、自分の事のように嬉しい気持ちになった
暖かい気持ちになった
私は一人暮らしだし、彼氏もいない
特に欲しいとも思わない
共に働き、デスクを並べていても皆には皆の会社とは違う顔があるんだな
ふと、そんな事を思った
私と絵理沙が、2つのお菓子を決めれなかったように
価値観が違う、喧嘩をする・・
それでも誰かと居たいと思う
それは素敵な事なんだな。と思う
いつか私にも、そんな相手が出来るだろうか・・
「んー」
絵理沙が一つ伸びをする
「さ、先輩!今日も一つ、働きますか!」
「・・うん」
今日も同じ一日
でも昨日とは違う一日
毎日新しい一日
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迷い、悩み、ぶつかり、選び、進む。
今日は何を選び、どこに進路をとるのだろう
「・・私も恋、したいな」
「えぇ⁉」
「ん?」
「今、そんな話してましたっけ?」
「あー、そだね。ごめん」
「いや、全然。いいんですけど」
絵理沙が驚いている
私が恋愛とか、そんなにおかしいだろうか
「先輩」
「ん?」
「好きな人が出来たら、絶対教えてくださいね」
「・・なんで?」
「私、全力で応援しますから」
「へ?」
絵理沙が笑っている。自分の事のように
「・・私が恋愛とか ・・変じゃない?」
「は?何言ってるんですか! 恋愛なんて自由です。誰がいつ恋愛したって全く変じゃありません」
「・・そ、か」
「特に先輩は」
「へ?」
「いえ。 とにかく応援したいんです」
「ありがと」
「はい」
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心強い味方が居たんだな
こんな近くに
この味方に、呆れられないよう前を向こう
日々を、楽しみながら
選択し実行しよう