「え?何ですか?」
絵理沙が少し驚いた顔をして私を見る
「あ、 ごめん」
じっと見つめてしまっていたようだ
絵理沙は5年下の後輩で、小さな、事務員二人のこの会社では大切な仲間だ
明るく華やかで実は憧れていたりする
「何か、変ですか?」
絵理沙が不思議そうに自分をチェックしている
「いやいや、全然。変じゃないよ」
慌てて言ってみるけれど、絵理沙は納得してくれないようだ
「でも凄い見てましたよね?」
「え・・?」
「ね?」
「あぁ、うん」
「なんですかー?気になるー?」
絵理沙が拗ねたように見つめてくる
言わなきゃ、納得してくれないな。と腹をくくる
「ほんとに大した事じゃないんだけど」
「はい」
「髪、綺麗だなーって」
「え?」
「髪」
「髪?」
「うん。 毎日綺麗に巻いてるけどさ、全然傷んでないよね」
きょとんとした顔の絵理沙も可愛い
「そーですか?先輩だって綺麗じゃないですか」
「んー、そうかな?」
「そうですよ」
実は最近、髪に悩みがある
髪が痩せてきたっていうのかな?
まぁ、もう31だし。年齢のせいもあるんだろうけど
洗いあがりも今までよりごわつく感じがあるし
ドライヤー前にはトリートメントだってちゃんと付けているけれどやっぱり前と違う気がするのだ
「あのさ、これ、私の自論なんだけど・・」
「はい」
「髪にツヤが無かったり、弾力がなかったり、髪が汚いと老けて見える気がするんだよね」
「あぁ!それ分かります」
「ほんとに?」
「はい、生活感?って言うか疲れたように見えますよね?逆に髪が綺麗だとやっぱり若く見えます」
「そう!そうなの」
私と絵理沙、二人して自分の髪の毛先を眺めてみる
「カラーリングもしてるでしょ?」
「まぁ」
「それで、毎日綺麗に巻いて。でも全然傷んでない」
「いやいや、傷んでますよ」
「そうかな?」
「はい」
「でも、そう見えない」
「そーですか?」
「うん」
絵理沙の髪を少し取る
うん、やっぱり綺麗だ
「何かしてるの?」
直球で聞いてみる
「んー、特に特別な事はしてないですけど。シャンプー&トリートメントは美容院の使ってます」
「ん?何それ」
美容院の?
「ほら、美容院行くとすっごい髪ツヤツヤになりません?」
「なる!」
「ですよね?勿論、ブローの仕方とかも大事だったりするんでしょうけど、
シャンプー&トリートメントも違うのかなって」
「そんなの買えるの?」
「買えますよー!美容院で販売してるお店もあるだろうし、まぁ、私はネットですけど」
「何それ!教えて!」
勢いが付きすぎた・・、絵理沙が笑っている
「ごめん」
「いえ、全然」
絵理沙がPCに出してくれる
「これです」
「・・サンコールR‐21?」
PCの画面にボトルの画像が映し出される
「私は通ってる美容室で教えてもらって、それから使ってるんですけど中々いいですよ」
「同じの使ってみていい?」
「勿論です!」
「ありがと」
画面に映し出された情報をメモに取る
心が逸る
期待が高まる
高揚する
私は一人暮らしだし、彼氏もいない
特に欲しいとも思わない
それでも綺麗でいたいと思うんだな。と思う
「ねぇ」
「はい?」
「絵理沙が、綺麗にそんなに一生懸命なのはやっぱり彼氏の為?」
「まさか!」
絵理沙が笑う
違うのか・・。
「じゃあ、・・何の為?」
「んー、自分の為。ですかね?」
「自分の為・・?」
「まぁ、やっぱり褒められたら嬉しいじゃないですか!」
「うん」
「お気に入りの洋服着たら気分も上がります」
「うん」
「気分が上がれば、やる気も出ます!」
「うん」
「自分が頑張る為にお洒落にも全力です」
「・・そっか」
「はい」
絵理沙は強いな、と思う
「でも本当は」
「ん?」
「本当は・・、強くありたいから。ですかね?」
「え?」
「弱っちい自分を見せたくないから。ですかね」
絵理沙が、笑っている
「そーだね」
「え?」
「お洒落も髪も女の武器だもんね」
「ですね」
絵理沙がPCに向かっている
そうか、女が綺麗でいたいと思うのは
誰の為でもなく自分の為
自分の気持ちを上げるため
弱い自分を隠すため
前を向いて戦うため
だから、誰のせいにもしない
誰のせいにも出来ない
私は流行に敏感ではないし、興味もそこまでない
でも、自分の思う自分の為に綺麗は大事なんだな
明日の自分の為に、先ずはシャンプー&トリートメントから変えてみよう
さらさらツヤツヤの髪になった自分
きっと、足取り軽くなる