2018 【トレンド】ごつかわスニーカーでどこまで行こう?

「この春はさ、やたらスニーカー見るよね」

 

隣で自慢の低カロリー手作り弁当をつついている絵理沙に言ってみる

「ですねぇ、何かBalenciagaのTriple S(トリンプソール)が流行ってから、みたいですよ?」
「ふーん」
「先輩もオシャレに興味あるんですね?」
「・・どういう意味?」
「いえ、別に・・」

 

まぁ、確かに
正直私は流行に敏感ではないし
興味もそこまでない。
でも、最近よく見るな。ぐらいは思うし、周りだって見ているつもりだ

「なんで、Triple S(トリンプソール)みたいな、ゴツカワ?が流行りです」

 

 

これも流行りだというサーモスのランチジャーを片付けながら絵理沙が教えてくれる

 

     

 

「ふーん・・」
「・・気になります?」
「うん」
「いいと思いますよ。先輩に合うと思います」
「え?」

思わず、絵理沙の顔を見つめる私に

「先輩足、綺麗だから。ごついスニーカー似合うと思います」

そう言ってにっこり笑った。

「ありがと」

何となく気恥ずかしくて俯いてしまう。
絵理沙は5年下の後輩で、小さな、事務員二人のこの会社では大切な仲間だ
明るく華やかで実は憧れていたりする

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

ーーー買ってしまった、買ってしまった、買ってしまった!

【BalenciagaのTriple S】

 

     

 

正直私にとっては高級品だし、とてつもない勇気がいったけど・・買ってしまった

買ったばかりのショッピングバッグを抱えいつもの街を歩く
和光の時計はいつもと同じようにライトアップされ
歌舞伎座の帰りだろうか、和装のおばさま方が談笑しながら歩いている
ビジネスマンのグループやドレス姿に着飾った女性達

いつもは足元に視線を落とし足早に駅に向かうこの道を
何故か今日は真っ直ぐ前を向いて歩いてく

私、スニーカー買ったんですよー!

心の中で叫んでみる
駅の向こうに東京タワーが見えていた。

 

 

 

 

「おはようございますー」
「おはよー」

営業の男性達はとっくに外回りに出ていて
今日も事務所には私と絵理沙の二人だけ

「・・・・・、先輩、何か。雰囲気変わりました?」
「え?」
「んー、何かな?髪型?・・はいつもと一緒だし」
「はぁ・・」
「メイク?  ・・も、同じですよねぇ?」
「まぁ・・」
「んー、何だろ?  でもなんか、良いですよ!」
「え?」
「いつもよりいい感じがします」
「・・ありがと」

絵理沙が自分のPCを立ち上げている

「あ、買ったんだ」
「え?」

絵理沙が勧めてくれたものだし、とりあえずな気持ちで報告してみる

「BalenciagaのTriple S」
「へ? は?  マジですか?」
「うん、マジ」
「高かったでしょ?」
「うん」

驚いた様子を見せたものの、何故かふと考え込む絵理沙

「・・あ!」
「ん?」
「だからだ!」
「え?」
「いつもと雰囲気が違うの、だからですね?」
「へ? 靴だよ? 今履いてないし」
「でもですよ? 変わるんです」

得意げに言い切って笑っている

「・・・」
「そういうもんなんです!」
「そう?」
「そうです! ね? 買って正解でしたね」
「・・うん。そーだね」

何故だか絵理沙の方が嬉しそうな顔をしているから
つられて私まで笑ってしまう
昨日からずっと思っていたことをぶつけてみる

「何かさ、変だと思うんだけど・・」
「え?」
「靴買ってさ、物は増えてるはずなのに何か、軽くなった気がする」
「・・うん。ですね、・・・分かります」
「そう?」
「はい」

 

 

 

 

 

今日も朝から綺麗に巻かれたロングヘアー
絵理沙は今日も変わらず綺麗だ

「先輩」
「ん?」
「今度、一緒に買い物行きません?」

思わず絵理沙の顔をじっと見つめてしまった・・

「うん! いいね」

事務員が二人だけの小さな会社
今日も私たちはPCに向かっている

 

 

 

 

世界は、 どこまでも広いのだ・・。
このスニーカーでどこまで行けるだろうか
それともこの場所で、どれだけ踏ん張る事が出来るだろうか

私たちは、今日もPCに向かっている